『 青空を渡る雲 』


少年は初めて見た空に言いました。

「僕の思った通り、すごく綺麗だ」


毎日使っている部室のイスに座り、
文庫より少し大きめな本を読んでいた。

「不二先輩、その本そんなに面白いんスか?」

制服からジャージに着替え終わった、桃城の言葉に顔を上げ

「ん?
 そんなに面白そうに見えた?」

問いかけてきた桃城に視線を向け聞き返す。

「面白そうというより、嬉しそうに見えますね」

逆に聞き返された桃城は頬を掻きながらの答えに

「嬉しそうか・・・
 そうかもしれないね」

納得をしたのか頷き、再び本を読み始めようするが

「どんな話なんですか?」

桃城の言葉に、再び視線を上げ、
読んでいるページに指を挟み本を閉じ

「この本?」

首をかしげ聞き返せば、苦笑交じりに

「ちょっと、気になりまして」

と、返してきた。

大きな文字で『ぬくもりの瞳』と書かれた本は、
今まで不二が読んでいた本とは違いが多く、
表紙に書かれている絵は子供向けの絵だった。

「目の見えない少年と妖精と一緒に旅に出る話だよ」

物語の全容を短く語り、桃城に聞かせれば

「目の見えない少年と妖精が旅に出るんスか?」

信じられないという雰囲気の言葉が返り

「うん。
 今読んでいる所で、少年の目が見える様になるんだよ」

いつもと変わらない声で言葉が紡がれる。

「目が見えるように?
 じゃぁ、主人公は目を見えるようになる為に旅に出るんスか?」

「いや、
 ただ、妖精に誘われて旅に出るんだ」

変わらぬ笑みのまま告げられる言葉に

「へぇ〜
 なんか変わった話ッスね」

感想を漏らす桃城に

「そうだね」

頷き返せば、外から呼ばれる声に桃城が手を上げ答え

「不二先輩、少し打って来ます」

言葉を残し、夏の日差しが残る外へと出て行く桃城を見送り、
再び本を開く。

目の見えなかった少年が言った言葉が、頭の中に残った。

『 僕の思った通り、すごく綺麗だ 』

目の見えない少年は空の色を見たことは無い。
空だけではない、
妖精の姿だって見えないし
妖精の言う、自分の瞳の色だって解らなかった。

なのに、少年は解っていた様に言葉を作った。

思った通り・・・

少年の想像どおりだった。
と、言う事だろうか?

色も無い世界の中で、
思い浮かべた空はどんな色をしていたんだろう?

首を動かし、窓から見える空は、色濃く雲との色もハッキリしている。

お互いが主張し合っていても、乱れることの無い色は
綺麗と言う表現が1番合っていた。

と屋上に寝転がり見た空は、少しだけ薄い色をしていた。

あの時の空は2度と見れない。

一秒たりと同じ色をすることの無い空
風と共に動く雲

今、見ている空も、目を閉じ、開けた瞬間は違う空になっている。

何気なく見ていた空の奥深さを教えてくれたのは、
この本の持ち主。

何も考えず、空を見るのが好きだと言っていた。

空を見上げて話した言葉も覚えている。

相打ちも言葉も無かったけど、
話を聞いてくれている事は解った。

始めは警戒心が強く、洞察力のある子だと思ったが、
何度か話している内に、不思議な子だと思い直した。

隠している事を見抜いて、優しい言葉でケアをしてくれる。

タイミングを狙っているのかと思うが、
まったく無意識でやっている。

相手の事は良く分かるのに、
自分の事は解っていない。

相手がどう思っているのか解っていない。

話しかけることも、相手の親切心だと思っている。

迷惑をかけまいと、必死に言葉を探している。

それを表に出さない事も解った。

ちゃんを見る目が優しい・・・
 いや、暖かい目をしてるよね』

不意に思い出した言葉に目を細める。

確か、部活が終わって、着替えている時にタカさんが言った言葉。

その後

『暖かいの?』

いきなりの言葉に、返す言葉が見付からずにいると
隣にいたエージが聞き返していたっけ・・

『なんていったら解らないけど・・・
 暖かいでいいんだと思うよ』

困った様に笑いながら言うタカさんの言葉に
乾の言葉の説明みたいなのが入って、

「じゃぁ、ぬくぬくでいいんじゃん!」

「正確に言うと、ぬくもりだな」

エージと乾が盛り上がって、話は終わった。

急に思い出した出来事に、小さく笑っていると、
窓から見える小さな空に、白い雲が見え始めた。

『風に流されるのではなく、渡っているんだと思います』

雨雲が掛かった空を見上げ、
傘を差しながら見た空は雲ばかりで、風に流されている雲の動きが解った。

不二の言葉にの返した言葉を思い出す。

「今日は、良く思い出す日だなぁ」

小さな空に雲が流れていく。

「流されるじゃなくて、渡っていくだったよね」

指を挟んでいた本を閉じ、
始まりの時間を迎えたコートへと歩いて行く。

いつも居るはずの木の下に、
は居なかった。





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           不二と恋する1週間(仮)
           
           第4話目 『空を渡る雲』でした。
           気のせいかも知れないけど、段々お題が難しくなってません?
           ネタが中々出てこないんですよ・・・・

           それにしても、私はどうしても続き物にしないと気がすまないみたいです・・・
           お題なんだから、1話切りでいいのに・・なんで続くかなぁ・・・・